北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

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体と心に効く! エイジレス健康情報マガジン

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スコブルvol.47より

こころのストレッチ

香山リカさん
[精神科医]香山リカさん
1960年札幌生まれ。東京医科大学卒業後、精神科医に。臨床のかたわら帝塚山学院大学教授、立教大学教授などとして教育活動にも携わる。2022年4月より、むかわ町国保診療所の副所長。週末は東京で精神科医としての臨床を継続している

気持ち、動きます

 コロナ禍も一段落し、外国人観光客の姿が目につくようになってきた。新聞では「新千歳空港と中国の北京を結ぶ航空路線が再開」といった報道が続いている。
 2020年春、私はミャンマーの病院に医療ボランティアに出かける予定を立てていた。はじめての国際ボランティアなのでかなり緊張し、早々に予防注射を何本も打ったり、ガイドブックを買ったりしてその日に備えていた。
 ところが新型コロナ感染症が世界に広がり、出発の1週間前になって航空会社から「ミャンマー行きのフライトは運航中止が決定」というお知らせが届いたのだ。私は心の底からがっかりし、「去年なら行けたのに、私は運が悪いんだ。もう海外になんか行くことはないだろう」と思い込んだ。去年あたりから徐々に外国に行けるようなってきたが、「今度こそ医療ボランティアに行きませんか」と知人に誘われても、「もう私には無理」と断ってしまった。
 そんな私も、外国から日本にやって来る人たちを見たり、「いよいよ海外ツアーを再開します!」といった宣伝を目にしたりしているうちに、また気持ちが変わってきた。「やっぱりいつか海外で医療活動をしてみたい」と考えるようになったのだ。「絶対こうだ」と思っていても簡単に変わるんだな、と人間の心の柔軟性に今さらながら驚く。
 もちろん、心は良い方向にばかり変わるわけではない。楽しい気分だったのに、友人や家族のほんのささいなひとことで突然、落ち込む、などということもある。昨日まで希望であふれていたのに、今朝起きたら「やっぱりダメだ」と自信がなくなっている、などということもあるだろう。
 でも、私のように「もう外国には縁がないんだな」とあきらめていた気持ちが、海外ツアーのポスターを見ただけで「やっぱりどこかに行きたい!」と前向きに変わることだってある。昨日まで落ち込んでいても、今朝には心の奥からなんとなく元気がわいてくるのを感じる、ということもあるはず。
 ネガティブにも変わるけど、ポジティブに変わることも同じだけある。それが人間の心というもの。「今度は私の気持ち、どんな風に良い方向に変わるかな」と楽しみにするのもよいのではないだろうか。

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