北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

スコブル

体と心に効く! エイジレス健康情報マガジン

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スコブルvol.44より

こころのストレッチ

よし。だいじょうぶ

 「自分を信じよう」という言葉をよく聞くけれど、それってなかなかむずかしい。
 私は子どもの頃から「あなたはマイペースだよね」と言われてきて、自分でも「そうなのかな」と思っている。でも、そんな私ですらときどき「ほかの人にどう思われてるんだろう。好かれてないんじゃないか」と気になることがあるのだ。
 たとえば、いま勤務している診療所の外来で、「次の方どうぞ」と患者さんを呼び入れたとき。診察室に入ってきた人が、「私、別の先生にお願いしたいんですが」と言うことがある。単に、「前からよく診てもらってた医者がいい」ということなのだろう。そうわかっていても、「はい、じゃちょっとお待ちくださいね」と別の診察室にカルテをまわしながら、「患者さんから信頼されてないんだろうか」とつい考え込んでしまう。「私は私のやり方で診療しているんだから、これでいいのだ」と胸を張ることができなくなるのだ。
 そうなると、次に始まるのは“自分のアラさがし”。「考えてみれば私はこういう知識もないし、この分野は苦手。おまけに声が大きすぎると言われるし、髪もときどきボサボサのままだ」などと、医療には関係ないことまで自分でツッコミを入れたくなる。ここまで来ると、「自分を信じること」なんて、まったくできなくなるのは言うまでもない。
 では、どうすれば多少、まわりのことは気になりつつも、自分を信じ続けられるのか。
 何より大切なのは、気持ちがちょっとグラっとしたときに、「そういえばこれもダメだしあれもダメ」と芋づる式に“自分のアラさがし”をしないことだ。「あ、ちょっと失敗しちゃったかも。次は気をつけよう。でもこれはこれ」と考え込むのをそこで打ち止めにする。そして、「よし。私はこのままでだいじょうぶ」と自分にひと声かけてあげる。
 秋は実りの季節。良い気候の中、おいしいものを食べたり前からやりたかったことを落ち着いて始めたりするにはベストなシーズンだ。私も古武術を用いた護身術のクラスに入門した。自分を信じる。自分のアラさがしをしすぎない。このマインドを忘れずに、この季節を自分らしく楽しんでいきたい。

香山リカさん
香山リカ
昭和35年札幌生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。4月より、むかわ町国保穂別診療所の副所長

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