北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

スコブル

体と心に効く! エイジレス健康情報マガジン

Regular

:::: :: 連載コンテンツ :: ::::

スコブルvol.42より

こころのストレッチ

うまい話に乗る前に…

 コロナに関連して多額の給付金が誤ってひとりに振り込まれたニュースで、一時はワイドショーが持ちきりだった。この事件のことはさておき、誰もが心の中で「突然、多額のお金が振り込まれたとしたら…」と空想してしまったのではないだろうか。
 苦労や努力をせずに、運や偶然によって思いがけない利益を得ることを期待する心理を「射幸心(しゃこうしん)」と呼び、これは誰の心にもひそんでいると言われる。もちろん、私にだってある。若い頃は友だちとよく、「ある日、弁護士から『亡くなった富豪の〇〇さんがあなたを遺産相続人に指名しました』と電話がかかってこないかなあ」などと話した。「何億円ももらえたら、あなたなら何に使う? 私はまず庭にプールがある家を建てて…」などと他愛のない夢物語を口にしたが、いま思えば“心のサプリ”みたいなものだったのかもしれない。
 とはいえ、射幸心やそれに基づく空想には負の側面もある。それを悪用して「あなたに外国の宝くじがあたりました。五千万円が振り込まれますので手数料十万円を送ってください」などと詐欺を働く人が、ときどきいるのだ。
 欲が深い人がだまされやすいとも限らず、かつて私が勤めていた大学で「海外の金持ちがこの大学に遺産を寄付してくれるんだって。それを受け取るために教員がひとり何万円かずつ口座に入れる必要があるらしい」と真顔で言った同僚がいた。まじめで純粋な学者だったので、そんな誘いを鵜呑みにしたのだ。「先生、それは射幸心を煽る詐欺ですよ」と説明して納得してもらうのはたいへんだった。
 「うまい話にはウラがある」とはよく言ったものだが、「私にも突然、いいことがないかな」と夢を見るのは悪いことではない。でも、「絶対すごいことがあるはず」と思い込みすぎてしまうと、それを悪用しようとする人にだまされ、結局は泣かされることになりかねない。
 そんなことを考えながらスマホを開いたら、何年ぶりかで友人からメールが来ていた。「病気してたけど元気になったから、そのうち会いましょう。」うれしい文面に思わず笑顔になった。こうやって“プチ射幸心”が満たされるくらいが、ちょうどいいのかもしれない。

香山リカさん
香山リカ
昭和35年札幌生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。4月より、むかわ町国保穂別診療所の副所長。音声アプリ ヒマラヤで「香山リカのココロのほぐし方」配信中。

Regular

:::: 連載 ::::

Coupon&Special

クーポン&特典[PDFファイル]