北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

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スコブルvol.42より

こころのストレッチ

カーリング精神

 北海道の選手たちが大活躍した北京オリンピック。子ども時代、小樽市ですごしてスキーになれ親しんでいた私は、アルペンやスキージャンプ観戦は以前から好きだったのだが、今回は弟に勧められて見たカーリングにハマった。
 カーリングは競技もおもしろいが、基本にある「カーリング精神」というのがなんといってもすばらしい。テレビで見ていてもわかるように、カーリングには審判がいない。選手どうしがお互いを信頼して進めていく“セルフ・ジャッジ競技”なのだそうだ。
 カーリングのルールブックのいちばん最初には、「カーリング精神」というのが掲げられている。それを読むとびっくりする。「カーラー(注・選手)は勝つためにプレーしますが、決して相手をいやしめるようなことはしません。真のカーラーは、フェアでない勝ちよりも、むしろ負けることを選びます」とあるのだ。
 そしてさらに、「カーリング精神」は観戦する人にも求められる。「相手チームの選手のナイスショットにも拍手をお願いします」「相手チームのミスショットに拍手したり、ヤジをとばしたりするこはやめてください」など、とにかくいちばんの基本とされるのは「親切な思いやり」だとされる。
 最近は、「手段は問わない。勝ったり稼いだりした方が立派」という“結果至上主義”がやたら持ち上げられている。そういった雰囲気の中で、「いくら努力しても負けは負けなんだ」「ほかの人にやさしくまじめに生きても損するばかりだ」と思い、気持ちが落ち込む人も増えている。しかし、「カーリング精神」はそれとは違う。フェアでないことをするくらいなら負ける方がよい、負けた相手にも思いやりを、と言っているのだ。
 いまの時代に忘れられがちなまじめさ、公正さ、やさしさ。それを勝ち負けや技術より大切なものとするカーリング。だから、試合を見ていると、勝敗にかかわらずあたたかい気持ちになれるのだろう。
 「全国の学校でカーリングを必修にしてこの精神を教えるべきだよね!」とつい興奮すると、同僚のナースに笑われた。「そんな一方的な押しつけ、カーリング精神から最も離れてますよ。」私が、まずカーリング精神を勉強した方がよさそうである。

香山リカさん
香山リカ
昭和35年札幌生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。4月1日より、むかわ町国保穂別診療所の副所長。音声アプリ ヒマラヤで「香山リカのココロのほぐし方」配信中。

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