北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

スコブル

体と心に効く! エイジレス健康情報マガジン

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スコブルvol.39より

こころのストレッチ

目の前の幸せ

 札幌の病院に勤める友人医師から、「ウチの病院でも高齢者へのワクチン接種が始まったんだけど、予約がうまくできないという人たちが直接、来院して混乱してる」という話を聞いた。その人たちは、「電話は通じにくいし、ネット予約はやり方がわからない」と不安を感じているとのこと。それは当然だろう。
 もちろんこれは札幌だけのことではない。東京の私のいる病院でもひとり暮らしの高齢者で「ワクチンの予約はもうあきらめました」と言い出す人もいて、「そんなこと言わないで、お手伝いしますよ」と必死に励ますこともある。世界でワクチンの接種が始まったときは、知人の医学部の教授は「コロナとの闘いも8合目まで来た。山頂が見えてきました」と興奮していたが、山頂はもうちょっと先のようだ。
 このようにコロナ禍が長引く中、「これ、いつまで続くの?」と息切れしそうになる人もいると思う。「もう、耐えられない!」とキレそうになる人もいるはずだ。短距離走でも中距離走でもなくて、マラソン。それをどうやって乗り切っていくかが、いま課題となっている。
 診察室では、いつもふたつのことを話す。ひとつは、「視野を狭くして、目の前のことだけを見てもいいんじゃないですか」ということだ。そう言うと、多くの人は「え?視野を広げるんじゃなくて?」と驚くが、ゴールがまだ見えない中、とにかく「いまこの時間、今日このいちにち」と考えて、それをなるべく楽しくすごせるように工夫する。そして、「朝はパンだったから昼はうどん、夜はごはん。なんてバラエティに富んだ日でしょう」となるべく自分をほめるのが、ふたつめのコツ。「私ってダメ」「これじゃいけない」というワードはNGにした方がいい。「私ってすごい」「けっこうやるじゃない」を一日十回を目指して心の中で言ってみて、と伝えることもある。
 「じゃ、先はどうなるんですか?」ときかれたら、「それはまた考えましょう。そのときは考えるお手伝いしますよ」と答える。そう、そのときはそのとき。なんとかなる。助けてくれる人もいる。息切れしないように、みんなで励ましあってマラソンをゆっくり走っていきましょう。

香山リカさん
香山リカ
昭和35年札幌生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。音声アプリ ヒマラヤで「香山リカのココロのほぐし方」配信中。精神科医、立教大学現代心理学部映像身体学科教授

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