ほめ上手・ほめられ上手
――あなたに会えてよかった。
こんな言葉をささやかれた経験がある人は、どれくらいいるだろうか。
実は、私はそう言われたことがある。しかも、一度だけではなく数回あるのだ。
「そんなにモテるタイプとは思わないけど」と首をかしげる人がいるだろうからタネ明かしをすると、この言葉を聞いたのは恋人からではなく患者さんからだ。治療がうまく行き、うつ病やパニック発作がおさまって無事に仕事や学校に戻れた患者さんの中に、「先生のところに来て本当によかったです」と感謝を述べてくれる人がいるのである。
これはなにも、私が名医だからということではない。ほかの医者が診たとしても、その人のうつ病やパニック発作は落ち着いただろう。でも、患者さんがせっかく「先生だから私を治せたのですね!」とほめてくれたときには、こちらもそこで私も「いや、たまたまですよ」などとは言わずに、「そんな風に言ってもらえるとうれしいです」とにこやかに返す。
そして、「ちょっと大げさなほめ言葉だな」と思っても、そう言われると心がじんわりと温かくなり「よし、これからもがんばろう」という気になる。言葉の力って大きいな、とつくづく思う。
だから私も、お店に行ったときには、「ここに来てよかった、あなたに頼めてよかった」と言うようにしている。レストランでは「やっぱりこのお店にして正解でした」、美容室では「美容師さんに切ってもらえてよかった」という具合に。すると、そう言われた人は必ず顔がぱっと明るくなり、うれしそうに「ありがとうございます」と返してくれる。するとこっちも、ちょっといいことをした気分になれるのだ。
新型コロナウイルスの影響でひとと触れ合う場面や仕事で外に出る機会が減っているいまだからこそ、「あなたに会えてよかった」「ここに来られてよかった」と言い合ってみるのはどうだろう。言われた人はもちろん、言った方も気持ちが晴れ晴れすることは、間違いない。
どうですか? あなたはこの雑誌を読んでよかったですか?…「もちろん! 読んでよかった」という声をぜひ聞きたいものだ。私もこのエッセイ、書けてよかったです。