北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

スコブル

体と心に効く! エイジレス健康情報マガジン

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スコブルvol.36より

こころのストレッチ

ストレスを感じたら…

 医者の仕事をしている私は病院が職場だが、ここには医者や看護師などのほかにも、いろいろな職種の人が働いている。
 あるとき診察をしていると、受付から「職員をひとり診察してもらってよいですか」と声がかかった。「もちろん」と返事をして呼び入れると、「資材課」と呼ばれるところで働く若い女性だった。日ごろ診察室にいると、この係の人がどんな仕事をしているのか、ほとんど知る機会がない。あれこれ質問すると、その女性は主に入院患者さんが使用する寝具の手配をしているのだそうだ。「病室に寝具をチェックに行って、古くなったものは廃棄を頼んだり交換したりもします」とのこと。
「へえ」と聞き入りながら、私は「あっ、調子が悪くてここに来たんですよね、ごめんなさい。どうなさったのですか」とようやく思い出して、問診を始めた。
 すると彼女は、「立ちくらみ、ふらつき、胃のムカムカ」などを訴えた。症状をくわしくきいても、大きな病気が潜んでいる印象はない。いわゆるストレス性のものだと考えられた。「ストレス、何かありますか」ときくと、コロナ感染症が拡大して以来、患者さんの寝具を扱うにも「自分が感染したり、患者さんに感染させたりしたらどうしよう」と緊張する、と話してくれた。「でも、同僚も同じはずだから、私だけ病院がストレスだなんて言えないし」と言って、大粒の涙をポロポロこぼした。
 そうか。いろいろな場所でいろいろな人たちが、コロナと闘いながら自分に無理をさせてがんばっているのだ。たまには、「怖い、つらい」とクチに出すことも必要だろう。
「ここでは“もうイヤ!”って大声出してもいいんですよ」と伝えると、「そこまでしなくてもだいじょうぶです、フフフ」と笑いが浮かび、顔に若々しさが戻ってきた。
 どうだろう。とくに北海道に住んでる人たちは、電車や車でちょっと行けば、ひと気の少ない海辺や野原もあるはず。そこでたまには「もうムリ~!」「耐えられなーい!」と声を出したり涙をこぼしたりしてもいいのでは。東京に住んでる私は、映画館の暗がりでよく泣いている。それだけでもけっこうからだと心がほぐれてひと息つけるものですよ。

香山リカさん
香山リカ
昭和35年札幌生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。音声アプリ ヒマラヤで「香山リカのココロのほぐし方」配信中。精神科医、立教大学現代心理学部映像身体学科教授

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