備えあれば憂い無し
また北海道で大きな地震があった。東京に住む私のスマホにもニュース速報のメールが届く。あわてて小樽でひとり暮らしをしている母親と、札幌で家族と暮らす弟に電話をする。母親は「寝ようとしていたらドン、と…。こわかった」と心細そうな声だった。小学生の姪っ子は、ちょっと涙声で「すごく揺れたよー」と言っていた。
災害は「いつやって来るかわからない」という点が、ひとの気持ちを落ち着かなくする。それは「不安」と呼ばれる感情だ。「何月何日に地震があります」と予告されるのもイヤだろうが、それでもわかっていれば具体的に備えをしたりどこかに避難したりもできる。「何がどう怖いか」がわかっての心配は、「不安」ではなくて「恐怖」と呼ばれる。そして精神医学では、人間にとってよりストレス度が高いのは、「いつなのか、どれくらいのことなのかよくわからない」という「不安」のほうだ、といわれている。
この「いつ来るかわからない」という不安を避けるために、私たちは「考えないフリ」をする。これは人間にとっては大切な生きる知恵だ。「今日か明日かといつもビクビクしているよりは、忘れてたほうがラク」と思っていれば、少しは心おだやかでいられる。とはいっても、心配は完全に消え去るわけではない。逆に突然、「ああ、いつ起きるんだろう!」と大きな不安が襲ってくることもあるかもしれない。
そういうときは、しばし頭の中で「もし次に地震が起きたら、枕元のラジオをすぐつけて、置いてあるジャージに着替え…」と一回、“予行演習”をしてみればよい。そうすることで、やみくもな不安は形のある恐怖にかわる。それだけでも実は少し気持ちが落ち着くはずだ。「えー、実際に想像したらもっと怖いじゃない!」という声も聞こえてきそうだが、とにかく「モヤモヤした恐ろしさ」ほどひとの心をむしばむものはないのだ。
実際に避難訓練などをするのはむずかしい。でも、「頭の中の避難訓練」なら、それほど時間もエネルギーも使わない。「地震が起きたら、あれとあれを用意して、非常用バッグを抱えていつでも避難所に向かえるようにすればだいじょうぶ!」と頭の中で整理すれば、恐ろしい不安もいつしか消え、気持ちも落ち着いていくはずだ。そして、あとは「考えないようにする作戦」で、おいしいものを食べたり楽しいお笑い番組を見たりして、自分をゆっくりくつろがせよう。頭の中での備えあれば憂いなし。“脳内避難訓練”、ぜひやってみてください。