北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

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体と心に効く! エイジレス健康情報マガジン

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スコブルvol.28より

こころのストレッチ

幸せを感じる時?

 このあいだの講演会の質疑応答タイムのことだ。ある女性が手をあげ、こう質問した。
「精神科医のカヤマさん、いろいろストレスがあると思うのですが、いちばん幸せを感じる時間はいつですか?」
 私はすぐに答えることができず、「うーん」と考え込んでしまった。まず、私はそれほど「ストレスいっぱい」の生活は送っていない。精神科医としていろいろな方の重い相談を打ち明けられることはあるが、実は診察室では笑いが出ることも少なくないのだ。
 たとえばある人は、うつ病で仕事をやめなければならなくなったのだが、こう話してくれた。「日中、家にいると、近所の保育園の中庭で遊ぶ子どもたちの声が聴こえてくるんです。それを耳にしているうちに、“そうだ、私は子どもと接する仕事がしたかったんだ”って思い出したので、次はベビーシッターの職を探そうと思って。うつ病になってよかったー、って思いましたよ。」私は、「それはよかったじゃないですか」と思わずにっこりしてしまった。
 このように、診察室では「生きるのってたいへん」と同時に「でも人ってすごい」と思わされる場面が少なくない。だから、それほどストレスは感じないのだ。
 そして、「幸せを感じるとき」の答えもまたむずかしい。私は毎日、夜、パジャマに着替えて布団に潜り込むとき、「あー、幸せ」と口にすることにしている。今日もいろいろ失敗もあったしやり残したこともあったけれど、とにかく寝る時間がやって来た。だとしたら、あまりあれこれ考えずに、からだを休めてゆっくり眠ろう。そう思うからだ。
 とはいえ、講演会の会場で「布団に入るときが幸せです」と答えるのも、なんだか恥ずかしい。なのでそのときは、「ファイターズが勝ったときです」と言った。それもまたウソではないからだ。
 「忙中閑あり」という言葉があるが、私は「苦中ラクあり」だとも思う。つらいとき、悩んでいるときでも、ちょっとだけ「ラッキー」とほほ笑む場面もあるし、お風呂に入ったりおいしいものを口にしたりしたときは「あー幸せ」という言葉が口をついて出る。そんなときに、「いや、いまは苦しい時期なんだから、そんなことを言ってはいけない」と思うことはない。苦しいときのひと休み、とばかりにその小さなラッキーや小さな幸せを味わいたい。24時間悩みっぱなし、朝から晩まで悲しみっぱなしでいる必要はないのだ。

香山リカさん
香山リカ
昭和35年札幌生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。音声アプリ ヒマラヤで「香山リカのココロのほぐし方」配信中。精神科医、立教大学現代心理学部映像身体学科教授

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