どっちがいいの? 心の薬
今日は、“精神科医の悩み”をきいてもらいたい。
診察室ではじめて出会う人、つまり初診の患者さんにひと通り診察を終え、「不眠の強いうつ病ですね」などと診断をつけ、「このお薬を出しましょう」と伝えると、ときどき「私、薬は飲みたくないんです」と言われることがある。
「薬は飲みたくありません」と言われたら、医者はどうするか。私の場合、まずはその理由をきく。すると8割は「副作用がこわい」という答えが返ってくるので、少し丁寧に「薬の効果と考えられる副作用」について説明し、「どうですか。あなたの場合、服用するメリットの方が大きいと思うのですが」と伝える。それでほとんどの人は、「そうですね。ではまず飲んでみることにします」と言ってくれる。
しかし中には、「副作用とか中毒とかではなくて、信念として薬には頼りたくないので」と答える人もいる。
「私は、カゼを引いてもなるべく薬は飲まないようにしてるのです。うつ病や不眠を治すために薬を飲むなんて、絶対にイヤなんです。」
そう言われたら、医者はどうするか。それでも「この人は少しでも早く薬を飲んだほうがいい」という場合は、「わかりました。2時間後にもう一度、お会いできますか。ほかの方の診察を終えてから、もう一度お話します」と伝え、外来終了後にじっくり薬の必要性を説明することもある。
そこまでして薬を出すほどではない、というときには、私はこう言う。
「なるほど。だとしたら、その分、なにもしないで脳と心とからだを休めていただく必要があります。薬を使ってリラックスさせる分、意識的な休息と食事、そして散歩などの適度な運動でリラックスするのです。時間も十分に使ってくださいね。」
「わかりました」とその人が「たっぷりとした休息」を約束してくれたら、しめたものだ。
薬を使わずに、人生の時間をぜいたくに使って自分を癒やす。よく考えたらそちらのほうが人間らしい治療法なのかな、とも思う。薬を使うべきか、それとも…。精神科医のこの悩みに、あなたはどう答えるだろうか。