北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

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体と心に効く! エイジレス健康情報マガジン

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スコブルvol.26より

こころのストレッチ

陽性バンザイ?

 この冬はインフルエンザの患者さんにいつも以上に出会った気がする。
 ハナに綿棒を突っ込んで行うあの検査の結果が出るまで、数分かかる。私はいつも、患者さんといっしょに検査キットがどう反応するか、見守ることにしている。「あっ」「なんか出そう」「先生、出たー!」「B型、間違いない!」。そばで聴いたら、ちょっとトボけた会話に思えるかもしれないが、私たちは真剣だ。
 陽性と出ると、たいていの人は「やっぱり…」とがっかりした顔をするが、中には「やった!」と喜ぶ人がいる。IT企業や商社などで働くビジネスマンたちだ。こんな話をしてくれた人がいた。
「ウチの会社、ふつうのカゼだとまず休めないんですよ。熱が高くても咳が止まらなくてもみんなマスクして働いてます。でも、インフルエンザだと休めるんですよね。いやー助かった」。
 正確にはインフルエンザは法定伝染病ではないので強制的な就業停止の対象にはならない。しかし、学校保健安全法にならって一定期間、休むように定めている事業所が多い。いっしょに喜んでよいのかと迷いながら、私はクスリを出して診断書を書く。「くれぐれもゆっくり休んでください。家で仕事なんてダメですよ」と念を押すことも少なくない。
 それにしても、「インフルエンザにならないと休めない」というのはヒドい話だ。いくら体調管理をしていても、人間はカゼもひくしおなかもこわす。転んでケガをすることもあれば、原因はわからないがからだのだるさで起き上がれないこともある。それはロボットではなくて、“生きもの”だからだ。一部の会社はそれが分かっていないようだ。
 平昌オリンピックでは日本人選手とくに道産子選手がおおいに活躍したが、あの人たちだってからだの調子を崩して長期に休んだり手術を受けてリハビリに励んだりしている。「4年に1度のオリンピックに照準をあわせて調子をピークに持っていくのはたいへんだ」と語っていた選手がいたが、その時期に体調も技術も最高潮であることじたいが奇跡のようなものだと言えるだろう。
 私たちはそんなトップアスリートとは違う、“ふつうの人びと”なのだから、もうちょっとからだの気まぐれにまかせてもよいはず。カゼのとき、おなかが痛いとき、体調がすぐれないときには、自分をいたわってきちんと休みたいものだ。

香山リカさん
香山リカ
昭和35年札幌生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。精神科医、立教大学現代心理学部映像身体学科教授。著書多数。近著に『「わかってもらいたい」という病』(廣済堂新書)

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