北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

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体と心に効く! エイジレス健康情報マガジン

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スコブルvol.25より

こころのストレッチ

トシでもいいじゃない

 年相応ってなんだろう。
 私も50代後半になったためか、最近よく考える。好きな音楽や好きな食べものは20代のころと同じだ。大学で学生に接する機会が多いせいか、つい「マジ?」「ヤバイね」などと“若者ことば”を使ってしまうこともある。上野動物園で生まれたパンダの赤ちゃんの動画を見て、「カワイイー!」などと声をあげることだってある。なんだか中身は昔からあまり変わらない。
 とはいえ、鏡に自分の姿を映してみると、イメージしていたものとあまりに違うのでギョッとすることがある。頭には白いものがチラホラ、口のまわりにも深いシワが刻み込まれている。目の上もなんだかタルンとしており、どこからどう見ても実際の年齢そのものだ。
 そういう場合、どちらが「本当の自分」なのだろう。もちろん、からだがあらわす自分が真実なのに決まっているが、それではパンダに歓声をあげロックにハートが熱くなる自分はニセモノなのか。そんなことはないだろう。強いていえば、年齢にふさわしいからだや顔を持った自分も、若いころと同じような心を持った自分も、どちらもこの私なのだ。そのあいだにギャップがあってもよいではないか。
 診察室にいても、人間って年を取ってもそれだけ成熟したり老成するわけではないんだな、と思うことがある。70代の方から恋の悩みを聞かされることもあれば、60代の方から「母親がどうしても許せないんです」という話を打ち明けられることもある。老け込みもしないがオトナにもなれない。とくにいまの時代、多くの人がそんな感じなのだろう。
 それなのに世間はよく、「いいトシなんだから」とひとに精神的にも年齢にふさわしい落ち着きや分別を求めようとしたがる。でもそう言っている人だって、きっと心の中は高校生の頃に持っていた熱さやカワイさを持っているのだ。
 もうあまり実際の年齢にとらわれるのはやめよう。もちろんムリして“若づくり”することはないが、自分の中にある若さ、幼さを否定せず、いつまでも青春の自分のままで喜んだり悲しんだり、怒ったり楽しんだりすればよいのではないだろうか。
「そんなことを考えることじたい、トシを取ったという証拠だよ」と言われると返す言葉もないのだが、最近、そんな“年齢いっさい関係ありません宣言”をしたくなっているのである。

香山リカさん
香山リカ
昭和35年札幌生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。NHKラジオ「香山リカのココロの美容液」パーソナリティー。精神科医、立教大学現代心理学部映像身体学科教授。

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