北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

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体と心に効く! エイジレス健康情報マガジン

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スコブルvol.23より

こころのストレッチ

このトシでわかること

 診察室の中でも外でも、よく「年齢なんて関係ないですよ」とアドバイスする私だが、実は自分では長いあいだ、すっかり「私なんてもうトシだ」と思っていた。私は顔だちが地味なためか、学生時代についたあだながなんと“オバサン”。それからずっと、「私はオバサンだからな」と思ってきたのだ。
 ところが最近、同世代の友人がとてもがんばっている場面を見る機会が増えた。「はじめてフルマラソンを走った」「船の免許を取って沖まで釣りに出ている」「大学院に入り来年は留学の予定」などなど。これが50代後半、もう孫までいるような女性たちの行動だというのだから、「私もこうしちゃいられない」という気分になってきた。
 とはいえ、何をしてよいかもわからない。あれこれ考えて、まずは格闘技系の護身術の教室に通うことにした。「若い人中心ですがシニアもいます」といううたい文句を信じて入門したが、さすがにキツい。腕立て伏せもできないのにパンチの練習などをする私にインストラクターはさすがに苦笑しているが、体力のなさを人生経験でカバーというか、相手の一瞬のスキをついて腕を取ることなどは得意だ。また、教わったことがうまくできなくても、「あー失敗失敗」と明るく笑ってゴマかせるのも、このトシになったからこそだ。もっと若かったら、「私ってダメだ」と落ち込んだかもしれない。
 もちろん、敏捷さやジャンプ力などは若い人に比べればかなり落ちるのだが、「トシを取ってかえってできるようになることもあるんだ」と身をもって知った。
 フランスの新しい大統領になったマクロン氏はまだ39歳だが、夫人のブリジットさんは25歳年上の60代。マクロン氏の母親のような年齢だ、と冷やかす報道もあるが、ブリジットさんはミニスカートなども着こなし、いつも堂々としている。そんな妻をながめるマクロン氏の表情もとても誇らしげだ。ブリジットさんは自分の人生経験や教師というキャリアを生かして、夫の演説の原稿を添削しているのだそうだ。彼女もやはり、「この年齢だからこそできること」を最大限、生かしている。
 若さはすばらしい。若いからこそできることは無限にある。でも、年齢を重ね、経験を積んでいくことも同じくらいすばらしい。「できなくなったことより、まだできること、いっそうできるようになったことに目をやろう」と、これからさらに声を大にして言いたい私である。

香山リカさん
香山リカ
昭和35年札幌生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。NHKラジオ「香山リカのココロの美容液」パーソナリティー。精神科医、立教大学現代心理学部映像身体学科教授。

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