北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

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スコブルvol.45より

こころのストレッチ 特別編

香山リカさん執筆の「こころのストレッチ」は、本誌で8年以上続く人気エッセイ。
今回は、こころの専門家の視点から、「推し」がもたらす効果を綴っていただいた。

[精神科医]香山リカさん
昭和35年札幌生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。2022年4月より、むかわ町国保穂別診療所の副所長

「推し」は こころをほぐす贈りもの
じんわり効かせてみませんか

 穂別の診療所で働くようになってから、毎日、たくさんの80代、90代の方々に会うのだが、決まって尋ねることがある。それは、「いまいちばんの気晴らしはなんですか」ということだ。その人が高血圧や糖尿病などのからだの病気であったとしても、ストレスはとにかく大敵。うまく気晴らしができているかどうかが、検査の数値を下げたり症状をやわらげたりすることも少なくないのだ。
 多くの人は「畑仕事」とか「朝夕の散歩」などと答えるが、たまに“推し”の話をしてくれる人もいる。「先生、実は私、韓国ドラマにハマってるんですよ。私はインターネットなど使えないのですが、娘が録画したDVDなんかを送ってくれるんです」「ここだけの話、好きな歌手がいてね。新しいCDは持ってないけど、昔のを毎日、繰り返し聴いてるんだよ」。そんな話を打ち明けてくれるとき、その人の頬はパアッと赤らみ、ひとみは心なしかうるんでいる。90代の顔の奥から、みずみずしい少年少女が飛び出てくるような気がする。
 もちろん、その人たちは“推し”があったりいたりするからといって、それ以上の何かを望んでいるわけではない。でも、想像だけならなんだって自由。「もしその歌手が70年前にやって来て、ハタチのあなたに出会ってたらどうなったでしょうね」などとイメージしてもらうと、わずか数分の時間旅行で心にうるおいがよみがえり、「ちょっと腰の痛みがやわらぎました」とニッコリ。実際にそんな経験も少なくないのだ。
 恋愛や友情ではない。遠い存在なんだけど、でも想像の世界ではすぐとなりで微笑んでくれる。そんな“推し”がもたらす効果は、高齢になればなるほど実は大きいのではないか、と最近よく思っている。
 そもそも私の“推し”は、7千万年前に生きていた恐竜のカムイサウルス。人間でもなければ実物に出会う機会もない。でも、その化石が発掘された穂別の地を歩きながら、「もしかしたらその昔、この同じ道をカムイサウルスが悠然と歩いていたのかも」などと空想すると、ちょっとしたストレスなんかどこかに吹き飛んでしまう。さらに、「この道で出会ったカムイサウルスが私のこと気に入ってくれて、背中に乗せてくれたりして」などとイメージすると、もう心がほんわかしてきて寒さも一瞬、忘れるほどだ。
 「いや、その昔の日本は海だったはず」とか「恐竜が人間と仲良くなるはずないじゃないか」といったヤボな批判は受けつけない。“推し”と私はいつだってふたりきりの世界で、あれこれ考えてはそこから心のうるおいとエネルギーを得ているのだから。
 ひとに話さなくたっていいし、もちろん友だちや家族といっしょに楽しんでもいい。“推し”のある心ポカポカ生活、あなたも楽しんでみませんか?

香山先生の推し活ライフ
平日はむかわ町の穂別診療所、週末は東京と、2拠点で生活を送っている香山先生。
どんなに忙しくても、「推し」の時間は惜しまないのでした。

香山先生が穂別に引かれたのは、ここが恐竜の町だから。写真は穂別博物館に展示されている「カムイサウルス・ジャポニクス」の実物大骨格標本。
館長の櫻井和彦さんとの恐竜談議も楽しみなのだとか


住まいのすぐそばまで来る動物を見つけては、パシャリ。こんなシャッターが押せるのも、穂別ならでは、ですね


18年来のファイターズファン。札幌ドームでのホーム最終戦でもエールを送った。「新球場でも応援します!」

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