北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

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体と心に効く! エイジレス健康情報マガジン

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スコブルvol.24より

こころのストレッチ

雨ニモ負ケズ?

「お天気とメンタルって関係あるんですか?」
 こんな質問をよく受ける。もちろん、天気のよい日は気分がいいし、どんより曇った日はなんとなく落ち込む。でも、質問している人がききたいのは、天気や温度とメンタルの調子にはなにか科学的な関係があるのか、ということなのだろう。
 これに関してはまだ医学的な定説はないのだが、人間も自然の中で生きる生きものだから、やはり湿度や気圧、日照時間がからだに影響を与え、それが心のバランスにも何らかの影響は与えるだろう、とは言われている。
 一時期、冬の日照時間の短さが脳内の化学物質不足を招いて起きる、「冬季うつ病」というのが話題になったことがあった。いまでも、カプセルホテルのような装置の中で強い光を浴びせる光線療法を行っているクリニックもある。ただ、冬には悪天候が多い北海道と冬晴れが多い東京とで精神科医の仕事を経験した私には、とくに北海道にうつが多発していた印象はない。「うつ病の原因はなんといっても人間関係や仕事のストレス、日照時間はそれほど問題ではないんじゃないかな」というのが正直な感想だ。
 では、はっきりしないこの「天候とメンタル」の関係に、私たちはどうやって対処すればいいのだろう。
 それはやっぱり、「ムリをしない」ということに尽きる。
 とくに台風や低気圧の通過するとき、気温が上がったり下がったりするときなど、変化が激しいときには注意が必要。「どんなときも同じペースで働いて生活する」のではなくて、「今日は大雨。いつもより早く仕事を切り上げて帰ろうかな」などと自然にあらがわないことが大切だ。「雨ニモ負ケズ」ではなくて、「雨ニハ負ケル」でいいのだ。
 そしてもうひとつ、気候の移り変わりを楽しむ余裕も忘れてはならない。「ああ、もう寒くなってきた。そろそろホットワインがおいしいかも」「今年の冬は久しぶりに編み物なんかしようかな」など、そのときならではの食べもの、趣味などを積極的に取り入れる。
 お天気と争わない。自然には素直に従う。そういうしなやかさがあれば、季節性のうつ病や気候の変化によるストレス病などもある程度はスルーできるのではないだろうか。
 私も今年の秋や冬は、ちょっと手の込んだ煮込み料理に挑戦しようと思っている。こういう天候だからこそできることがきっとあるはずだ。

香山リカさん
香山リカ
昭和35年札幌生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。NHKラジオ「香山リカのココロの美容液」パーソナリティー。精神科医、立教大学現代心理学部映像身体学科教授。

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