北海道、札幌市のフリーペーパー「スコブル」。香山リカさんのエッセーで心をほぐそう。

スコブル

体と心に効く! エイジレス健康情報マガジン

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スコブルvol.18より

こころのストレッチ

うれしい春なのに、なぜ?

 春は変化の季節である。精神科の診察室も大忙しだ。「ああ、大学入試に不合格でうつ状態になる人などが来るんでしょう」と思うかもしれないが、やって来るのは失敗、挫折といった変化を経験した人ばかりではない。
 かつて、診察室にこんな人が来たことがあった。
「私、長年の恋愛が実ってこの春、結婚したんです。希望通りの会社に転職することもできたし、資格試験にも合格しました」
 なんだろう、自慢話に来たのだろうか、と思ったが、もちろんそうではなかった。気分的には幸せいっぱいなのに、なぜかからだに力が入らず、ため息ばかりが出てやる気もなかなかわかないのだという。「努力や苦労が実って願いがすべてかなった」という変化が、知らないうちにストレスになっていたのだ。私はほほ笑みながら言った。
「これまで相当、がんばられたのですね。ほっとしていま、疲れが一気に出ているんですよ。しばらくの間、ダンナさんにお願いして家事なんかやってもらうといいですね。おいしい食事を作ってあげなきゃ、などとあまり張り切りすぎないでくださいね」
 すると、彼女は「あこがれの人と結婚できたのだから、最高の奥さんにならなきゃ、と思いすぎてたかも」と涙ぐんだ。長い一生、あせることはない。いまは夫に助けてもらい、またそのうち自分が元気になったらゆるゆると夫のサポートに回ればいいのだ。
 このように、“うれしい変化”である結婚、昇進、合格、新築などがきっかけとなってうつ状態になってしまうことも、とくにまじめな人の場合はよくある。その人たちは、「せっかくいいことがあったのだから、さらにがんばらなきゃ」と自分をせき立ててしまうのだ。
 これまで一生懸命、努力して、成果が出た。そのときは「やった」と喜び、十分、自分をねぎらったほうがいい。「こんなことで調子に乗ってはいけない」などと自分を戒めるのはほどほどにすべきだ。
 この春、あまりうれしくない変化があった人は、「まあ、いいや。これからが本番だ」と自分に言い聞かせて。うれしい変化があった人は、「おつかれさん」と自分を休ませて。これが私からの“春のメッセージ”だ。

香山リカさん
香山リカ
昭和35年札幌生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。NHKラジオ「香山リカのココロの美容液」パーソナリティー。精神科医、立教大学現代心理学部映像身体学科教授。
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